シネマヴェーラ渋谷
2015年 02月 05日
1月は渋谷にあるシネマヴェーラで映画を観た。同じビルの3Fにはユーロスペースが入っており、そこでは何度か映画を観たことがあったが、4Fのシネマヴェーラは初めてだ。性格的には新作のロードショーではなく昔の名作を上映する名画座というところか。通常は2本立てで入れ替えなし。飲食類の持ち込み可。一般1400円だ。昨年末から1月にかけて「映画史上の名作 Vol.12」と題して1920~50年代の作品が日替わりで上映された。1回限りではないとはいえ日替わりなのでチラシのプログラムに首っ引きになってしまった。
1/15(木)
「ドクトル・マブゼ」Dr.Mabuse, der Spieler - Ein Bild der Zeit、1922年、独、白黒、サイレント
第一部 大賭博師篇 156分、第二部 犯罪地獄篇 116分
監督・脚本:フリッツ・ラング
出演:ルドルフ・クライン=ロッゲ(マブゼ)、ベルンハルト・ゲッツケ(フォン・ヴェンク)
第一次大戦後のドイツの状況がわかるのは紙幣を偽造するのにドイツ・マルクではなく米ドルをつくるところ。また協定書を強奪して株式市場の混乱に乗じて儲けるとか、結構現代的なところもある。変装や催眠術を使って賭博でインチキをしたりする第一部のほうがお話としては面白い。第二部では殺人の場面が続いてマブゼに共感しづらくなってくる。
1/23(金)
シネマヴェーラの年間会員になる。年会費1000円。鑑賞料金1400円が1000円に割引。
「疑惑の影」Shadow of a Doubt、1942年、米、108分、白黒
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジョゼフ・コットン(チャーリー叔父)、テレサ・ライト(チャーリー)
ヒッチコックお気に入りの傑作サスペンス・スリラーとのことだが、本当に傑作なのかなあ。あまりサスペンスを感じなかった。ヒッチコックは『映画術』の中で理想主義者の殺人者と言っているが、ラスコーリニコフ的な意味合いだろうか。叔父と姪が同じ名前だったり、冒頭でベッドに横になっているシーンなどがシンメトリーを意識していていいということらしいが、これなどはそれだけのためで物語全体からするとどうでもいいことだ。特に名前が同じということで何か行き違いが生じるのかと思っていた。しかしそんなことは全然なく、ただ単に同じというだけの無意味さだった。主人公のジョゼフ・コットンの言葉がときどき下品になるのが、字幕だけかもしれないが気になった。また夫婦がどちらも能天気過ぎて疑うということを一切しない。
「マクベス」Macbeth、1948年、米、107分、カラー
監督・脚本:オーソン・ウェルズ
原作:ウィリアム・シェイクスピア「マクベス」
出演:オーソン・ウェルズ(マクベス)、ジャネット・ノーラン(妻)、ダン・オハーリー(マクダフ)
舞台劇のようだった。しかもカラーだったとは。これを書くためにチラシを見るまで気付かなかった。それくらいシンプルな作りだった。すべてセットで、それも岩山の城で簡単なものだ。王冠は四角くて、紙のような安っぽいものだった。ここまでくると象徴的な意味が出てきそうだ。セリフもマクベスの心の中、モノローグが半分くらいだろうか。
図らずもこの日観た2本の映画の出演者ジョゼフ・コットンとオーソン・ウェルズは、あの「第三の男」の二人ではないか。
1/27(火)
「ローラ殺人事件」Laura、1944年、米、88分、白黒
監督:オットー・プレミンジャー
出演:ジーン・ティアニー(ローラ)、ダナ・アンドリュース(マクファーソン刑事)、クリフトン・ウェッブ(ラ イデッカー)、ヴィンセント・プライス(シェルビー)、ジュディス・アンダーソン(アン)
推理小説を忠実に映画化したような作品。ジーン・ティアニーはきれいだが、刑事役のダナ・アンドリュースが変にコワモテやクールを装うわけでもなく、淡々とした語りや動きがいい。マクファーソンも含めた5人の愛情の方向が隠れたテーマともいえそうだ。
「面の皮をはげ」Miroir、1947年、仏、92分、白黒
監督:レイモン・ラミ
出演:ジャン・ギャバン(リュサック)
かつてアナキストだったリュサックは、いまでは実業家で裏の世界でも実力者となっている。その配下の者の人数が多く、着ている服もフォーマルもしくはダブルのスーツで区別がつきにくかった。結局、上着のポケットに両手を突っ込んでほとんど表情を変えないジャン・ギャバンの印象だけが強く残る。あとは、リュサックの過去を知っている年増の女性歌手(愛人?)が退廃的な雰囲気でよかった。最後の銃撃シーンは話を終わらせるためだけのようにも見える。
1/28(水)
「ナイアガラ」Niagara、1953年、米、89分、カラー
監督:ヘンリー・ハサウェイ
出演:マリリン・モンロー(ローズ・ルーミス、妻)、ジョゼフ・コットン(ジョージ・ルーミス、夫)、ジーン・ピー タース(ポリー・カトラー、妻)、ケイシー・アダムス(レイ・カトラー、夫)
モンロー・ウォークの始まり。マリリン・モンローとジョゼフ・コットンが夫婦という設定には違和感がある。マリリン・モンローに妻という雰囲気が全然ない。最後までの展開を考えると主演はジョゼフ・コットンではなかろうか。全般にセリフが少な目なのがいい。夫婦2組が出ると、2組目の夫は大抵バカに見える。ここではケイシー・アダムスが損な役回りだ。ヒッチコックが監督でもいいと思った。
「赤い河」Red River、1948年、米、127分、白黒
監督:ハワード・ホークス
出演:ジョン・ウェイン(トーマス・ダンソン)、モンゴメリー・クリフト(アシュー・ガース)、ウォルター・ブレナ ン(ナディン・グルート)
ハワード・ホークス、ジョン・ウェインと大物の映画のためよく記事を目にするが、そもそもタイトルにそんなに深い意味はなさそうだ。1万頭近い牛と馬の移動が映画の大半なのにそれ自体を描いたシーンは少ない。荒野を牛が進んでいくシーンは俯瞰でも見たかった。牛が暴走するシーンはよかった。また、多くの牛が町の通りを走るのは意外性があって面白い。もっと迫力を出してもいい。最後のジョン・ウェインとモンゴメリー・クリフトの殴り合いのシーンは予定調和的というのは言い過ぎか。ジョン・ウェインは頑固なだけという印象。リーダーシップが強いというのとはちょっと違うと思う。