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映画の沼に引きずり込まれています。

いま金井美恵子『愉しみはTVの彼方に』と題した映画評論を集めた本を読んでいる。発行は1994年で約20年前の文章だ。ロードショーで上映された映画について触れているのではなく、主に映画史に残るような作品について独特の長い、文章教室的には一つの文をもっと短くまとめましょうと言われるような、しかし流し読みを許さないような言い回しで感想を述べている。最初はそれが抵抗になるのだが読み進めるうちに、乾いた粘っこさとでもいうようなものが楽しくなってくる。ちょっとプルーストに似ている。

ところで次の文章はジャン・ヴィゴ監督『アタランタ号』について書かれたものからの引用だが、その感想というか金井さんの観方が表れた箇所にアンダーラインを引いてみた。長い比喩と言ってもよさそうもので、これがそのまま映画の印象・評価になっている。こんな文章表現ができたらと思う。
ちなみに『ポンヌフの恋人』や『タイタニック』で使われた、舳先で両手を広げるシーンはこの映画が大元らしいと何かで読んだが、肝心の『アタランタ号』を観ていないので何とも言えない。ぜひ観てみたい映画のひとつだ。

・・・・・・教会での式をおえた花婿と花嫁が村の通りを二列に並んだ親族たちの行列と共にアタランタ号がもやっている河岸まで歩く比較的長いシーンがある。ウェディング・ケーキの上に飾られた紙とレースでこしらえた花婿と花嫁のように、ぎこちなく歩く二人の後から続く黒い衣装で盛装した親族たちは、新婚の二人の姿が画面から足早に消えると、まるで葬式の行列のように見えるし、河岸にもやっている艀を見た新妻ディタ・パルロの顔は、親とか乳母にとんでもない不合理な扱いを受けて、泣き出すのがいいか喚き出すほうが効果的か決めかねている小さなわがままな子供のようにしかめっ面になり、新夫が元気よく手を振って別れの挨拶を送ってはしゃいでいるにもかかわらず、記念写真を撮るように行儀良く土手に並んだ新妻の親族たち、じっとしたまま手を振りもしないのだ。



もうひとつ、こちらは思わず笑ってしまった箇所。

・・・・・・『大人は判ってくれない』を初めて見た若い映画評論家が、どの子供がジャン=ピエール・レオーなのかわからなかった、と言ったという話を耳にした時は、そいつをビルの屋上から突き落としてやろうか、と思ったものだった。



愉しみはTVの彼方に―IMITATION OF CINEMA

金井 美恵子 / 中央公論社


by pprivateeye | 2015-02-13 18:36 | 映画

写真について、極私的な、 あれやこれや


by pprivateeye